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FOCUS-審査支払機関の改革、職員によるレセプトチェックを全体の10%程度に

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  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

審査支払機関の機能強化として進められている、社会保険診療報酬支払基金の改革。改革の渦中で理事長に就任された、神田裕二氏(社会保険診療報酬支払基金 理事長)に、お話を伺った。

 

―2017年からはじまった改革の渦中にご就任され、また関係する医療法改正案が国会審議中ですが、改めて今回の改革の大きな流れについてお話いただけますか。

 

神田裕二氏

神田氏 社会保険診療報酬支払基金(以下 支払基金)は戦後すぐの1948年に設立され、昨年(2018年)9月に70周年を迎えました。支払基金の主要な役割はレセプトの審査ですが、設立当時は紙だけであったため、短時間で膨大な紙を地域間で移動させることは不可能だったわけです。したがって、各都道府県の支部に任せ、業務全般に責任を持たせるという支部完結型の業務実施が合理的でした。

しかし、2001年から希望すれば電子レセプトで請求できるようになり、さらに2006年からはオンライン化されたこともあり、現在では全体の98.4%が電子レセプトで請求されています。そのため、コンピュータによるレセプトチェックを全国統一的にかけられる環境が出来上がってきました。

さらに、医療保険制度の改革もあり、医療提供体制だけでなく医療保険財政にも都道府県が責任を持つようになりました。また、保険者協議会が新たに設置され、都道府県単位で保険者や広域連合が共同して医療費適正化に取り組むようになってきました。その結果、医療費が高いところは保険料も高くて当然ではないかといった認識も共有されるようになりました。

ただ、そうした活動を推進し、国民、保険者の理解を得るためには、審査における地域間の不合理な差異をできるだけなくしていく必要があり、支払基金としては先に紹介した支部完結型から、本部中心の全国統一的な業務実施体制に移行していくこととなったわけです。これが今回の改革の趣旨になります。

 

―業務の効率化、高度化に取り組むとされていますが。

 
神田氏 現在、2021年9月の稼動に向け、新しい審査支払システムの開発を行っていますが、その過程でICT、AIなどを最大限活用して、レセプトの振り分け機能を実装しようとしています。

振り分け機能により、医学的な判断が必要なものや査定率が高いレセプトは人が重点的に審査する、逆にまったく査定されていないようなレセプトはコンピュータチェックにもかけない。その中間のものは、コンピュータチェックにかけて、問題ありというものについては人が見ますが、問題ないとされたものは人は見ないといった、大まかに3つ程度に振り分けたいと考えています。

現在、コンピュータチェックで審査が完結しているものがレセプト全体の約65%、職員によるチェックが約35%となっていますが、職員の目で確認するレセプトを全体の10%程度まで減らしていきたいと考えています。さらに、これら業務の効率化を進めることで、2024年までに約800人の職員のスリム化を図ることを目指しています。

 

―800人というのは少なくない数ですね。

 
神田氏 もちろん、解雇という手段ではなく、定年退職や希望退職、そして新規採用職員数の調整等で達成できる数字だと考えています。これを実現することで、支払基金の運営経費を削減し、結果として保険料を軽減する方向で国民に還元できると考えています。

 

―振り分け機能ということについてもう少し説明いただけますか。

 
神田氏 例えば、レセプトの診療行為、病名、医薬品などの組み合わせで類型を作って、ある類型のものについてはこれまで何%査定されているといった類型ごとの査定率をはじき出したり、類型がないものについては、大量のレセプトをコンピュータに読み込ませ、xgboostという機能を使い、過去の実績から査定率を予測させていきます。先に申し上げたようにこれによって人が見るレセプトを減らしていく。できるだけ高度な医学的な判断が求められるようなものに重点的に人的資源を投下していきます。

 

―そうすると、現在の審査委員の体制や人員も大きく変化してくるのでしょうか。

神田氏 検討はしていきますが、そこには難しい問題もあります。人が見るレセプトを減らしていくとはいえ、最終的に残ってくるのは、高度で専門的な判断を要するようなものでしょうから、単純に時間を減らせるものでもないと考えています。

 

―今回の一連の改革で医療機関にとってどのようなメリットが出てくるのでしょうか。


神田氏
 これまで支払基金は適正な審査、迅速な支払を使命としてきましたが、今回の法改正には新たに、「適正な報酬の請求に向けた医療機関等の支援」ということが盛り込まれています。具体的にいいますと、これまで「どういう基準で、査定・減点されているのか分からない」とのご批判も多かったコンピュータのチェックルールをできる限り公開していきます。

これは既に2018年から取り組まれていますが、当時、19万程度のチェックルールのうち8万6000ほどのチェックルールを公開しました。現在は、約25万程度のチェックルールになっているので、全体の3分の1程度となっていますが、これも増やしていきます。

さらに、電子的な公開方法とすることで、レセコンベンダーが容易に取り込み、市販のレセコンに組み込まれていくことで、医療機関の適正なレセプト作成がさらに推進されることにもなります。

また、返戻や査定理由を明確化するため、原審査では、現在、82.4%の査定理由の付記を、2020年までには100%にしていきます。保険者の再審査についても、現在の64.5%を2020年度には80%にまで上げていく予定です。

 

―査定の強化ではなく、適正な請求を支援する体制をつくるということですね。

 
神田氏 そうです。先ほどの査定理由についても、短い文章で返しても理解が得にくいということもあるでしょうから、できるだけ理解できるような文章にします。また、これまで何回か査定あるいは返戻したようなものについては、医療機関に電話若しくは文書で連絡をとる、さらには訪問懇談などを行っていますが、こういった取り組みも継続強化していきます。

 

―審査の効率化、適正な請求が進んでいけば、支払スケジュールの柔軟化も期待できるのでしょうか。

 
神田氏 それについてはいくつか難しい問題もあります。技術的には、たとえば診療報酬点数そのものが「月○回の算定」といったものも少なくありません。別の視点では、保険者の資金繰りの問題もあります。

 

―効率化だけでなく、質向上も重要ですね。

 
神田氏 ええ。チェックする職員には、自分たちが行ったチェック内容について常にフィードバックしています。したがって、見落としや判断違いなどについては、同じ間違いをしないようコンピュータで対象となるレセプトを抽出できるようになっています。

基本的にはこのようにコンピュータチェックのうち有効なものは支部内で共有し、更に全国に適用するようにしていきます。また、本部の分析評価室で分析し、影響の大きいものから順次、コンピュータチェックルールに取り込んでいきます。

このように支部の取り組みを本部に集約させることの繰り返しによって、地域間の不合理な格差の解消と、審査の精緻化・高度化につなげていきます。

 

―高額レセプトの水準を引き下げました。

 
神田氏 2018年10月から、従来40万点だったものを38万点に引き下げました。これは特別審査委員会という仕組みです。

本部審査の対象を拡大させることで高額のレセプトを重点的に審査する狙いもあるのですが、地方では対応が難しい心臓や肝臓移植などが伴うような極めて専門的なレセプトの審査についても本部が担当するようにしています。

 

―審査の高度化、精緻化などを通して、審査のばらつきなども是正されていく。

 
神田氏 現在でも取り組んでいますが、不合理な審査結果の差異の解消については、さらに積極的に取り組んでいきます。

 

―国保との差異についてはいかがでしょう。

 
神田氏 法律でも支払基金と国保連合会が有機的な連携に取り組むとされています。現在でも、国保との協議会のようなものを持っており、そこでの調整も行っています。また、国保との関係は、まもなく厚生労働省に検討会が立ち上がって、2020年度中には、将来的な方向性が示されるものと思っています。

 

 ―本日は、まことにありがとうございました。

(文責 編集部)

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